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2023年法改正のまとめ①
2023.12.08
2023年6月14日に公布された「不正競争防止法等の一部を改正する法律」について、施行日が発表されましたので、内容を詳しくお知らせしていこうと思います。
この法律により、不正競争防止法、特許法、実用新案法、意匠法、商標法、工業所有権特例法などが改正されます。
知的財産権の分野のデジタル化や国際化が進んできたことを踏まえた改正となっており、スタートアップ・中小企業等が知的財産を活用した新規事業展開をしていけるよう後押しする意図があります。
改正法の3つの柱
(1) デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化
(2) コロナ禍・デジタル化に対応した知的財産手続等の整備
(3) 国際的な事業展開に関する制度整備
改正法の1つめの柱
(1) デジタル化に伴う事業活動の多様化を踏まえたブランド・デザイン等の保護強化
デジタル技術の活用によって、特にスタートアップ・中小企業の事業活動が多様化しています。これに対応して、新たなブランド・デザインやデータ・知的財産の保護を強化することが、1つ目の柱のテーマです。
①商標法では、登録録可能な商標が拡充されます。
《コンセント制度の導入》2024.4.1~ 商標法第8条関係
先行商標権者の同意があり出所混同のおそれがない場合、他人が既に登録している商標と類似する商標が登録できるようになります。
現行法では、他人が既に登録している商標と似ている商標を、同じor似ている商品やサービスについて重ねて登録することはできません。
たとえば、仮に和菓子の羊かんについて「あいぎ」という商標が登録されていると、ピザについても「あいぎ」という商標を登録することはできません。
改正法では、先行商標権者の同意があり、かつ、出所混同のおそれがない場合には、後願類似商標の登録が可能となります。
上の例では、先に登録された商標を持っている和菓子屋さんが、「うちは和菓子一筋で、ピザを作ることはないので、ピザについて「あいぎ」という商標を登録してもいいですよ」と言ってくれた場合、後に出したピザ屋さんの商標も登録される可能性があるということになります。
ただし、2つめの条件の「出所混同のおそれがない場合」というところを特許庁がどのように判断するかについては、まだ特許庁でも協議中です。
また、この商標法改正に関連して、不正競争防止法も改正され、このコンセント制度で登録された商標について、不正の目的でなく使用する行為等は不正競争防止法の差止請求等の適用対象から除外されました。
上の例でいうと、和菓子屋さんが同意してくれて、和菓子屋さんとピザ屋さんの「あいぎ」という商標が併存することになった後の話です。
ピザ屋さんの商標登録がされた頃にはあまり有名でなかった和菓子屋さんが、その後大人気となり、消費者も食品全般について「あいぎ」と言えばその和菓子屋さんを思い出すようになった(周知性または著名性を獲得した)場合、ピザの「あいぎ」を見て、「あの和菓子屋さん、ピザ屋さんも始めたのね。和菓子は美味しいけれど、ピザも期待できるかしら?」と思ってしまう確率もゼロではありません。
現行法ではこの場合、周知性のある登録商標権者である和菓子屋さんから、ピザ屋さんに対する差止請求ができてしまうのですが、それはおかしいということで、ピザ屋さんが不正の目的なく登録商標を使用する行為は、不正競争防止法でも差止請求の適用対象外になりました。
一方、和菓子屋さんが「このままだと消費者が間違えてややこしいので何か手をうちたい」と考えたときには、「混同防止表示」を付けてくれるようピザ屋さんに請求することができるようになります。
《他人の氏名を含む商標の登録要件の緩和》2024.4.1~ 商標法第4条第1項第8号、第4項関係、不正競争防止法第19条関係
他人の氏名を含む商標も、一定の場合には、他人の承諾なく登録可能になります。
現行法では、他人の氏名を含む商標は、その他人の承諾がなければ登録されません。
例えば自分の名前であっても、その名前の他人がいる場合、その人の承諾が要ります。
また、仮に同姓同名の他人が30人いた場合、その30人全員の承諾を得る必要があります。
改正法では、他人の氏名が含まれる商標でも、商標登録を受けようとする商品やサービスの分野で周知でない人であれば、承諾をもらわなくても登録可能になります。
もちろん「周知な他人の氏名」を含む商標は、その他人の承諾を得る必要があります。さらに、「周知でない他人の氏名」についても、創業者の名前であったり、嫌がらせなどの不正の目的があったりなど、一定の事情が考慮された結果、登録を受けられないことがあります。
②意匠法では、登録を受けるための手続き要件が緩和されます。
《意匠の新規性の喪失の例外適用申請手続きの緩和》2024.1.1~ 意匠法第4条第3項、第60条の7第1項関係
意匠登録出願前に同一又は類似の意匠について複数の公開行為があった場合でも、最先の日に行われた一の行為について証明書を提出すれば全ての公開行為について新規性の喪失の例外適用が受けられるようになります。
現行法では、意匠登録の出願前に、試験販売やイベントなどでデザインを公開した場合、それぞれについて新規性喪失の例外適用を受けるための手続きが必要です。
しかしながら、特に意匠については、売り出してみた後で、予想以上に評判がよく人気商品になったので出願をしたいと思うこともよくあります。このとき、SNS・テレビCM・新聞広告・雑誌等で積極的に宣伝し、あちこちのECプラットフォームで販売している商品の場合、膨大な数の資料を提出する必要があり、ひとつでも漏れがあると、自分が公開した情報のせいで登録を受けられなくなってしまうということがありました。
改正法では、出願する意匠と同一or類似のデザインが公開された「最先の日」に行われた行為のうち、ひとつだけについて証明書を提出すればよいことになります。
例えば1月1日に自社サイト・SNS・雑誌に同じ写真を使って新商品のデザイン発表を行い、1月8日からその商品の販売を開始したという場合、「最先の日」である1月1日の行為のうち、SNSでの公開行為について書類を提出すれば、残りの自社サイト・雑誌での公開や、後日の販売行為について、新規性喪失の例外適用手続きをする必要がなくなります。
ただし、手続を行っていない行為によって公開されたデザインが、手続したものと同一又は類似の意匠でないと判断されると、意匠登録出願の障害となってしまう場合があるので十分な注意が必要です。
例えば、商品の販売サイトを見たとき、SNSの投稿写真では写っていない部分も紹介されていて、さらに、ちょうどその部分に意匠出願と共通するデザインの特徴があるなどの場合は、SNSの投稿と販売サイトの両方について手続しておくべきでしょう。
法改正はありますが、できる限り、公開する前に意匠登録出願を行っておいた方がいいことに変わりはありません。
③不正競争防止法では、デジタル空間における模倣行為の防止と、営業秘密・限定提供データの保護の強化が図られます。
《デジタル空間における模倣行為の防止》2024.4.1~ 不正競争防止法第2条関係
メタバース等のデジタル空間における取引が活発になってきていることを受け、デジタル空間におけるデータ商品で模倣品の取引が規制されるようになります。
現行法では、譲渡等が不正競争として取り締まりの対象となる模倣品は、有体物(現実空間に物体として存在する液体・気体・固体等)となっていました。
改正法では、ここにデジタルデータなどの無体物が入ります。
例えば、アバターのアイコンに持たせるためのアイテムとして、有名ブランドの商品を勝手に真似したバッグのイラストをインターネット販売するような行為が、取締りの対象となると思われます。
具体的にデジタル空間におけるどのような行為が模倣とされるのかについては、特許庁の見解が発表されるのを待つ必要があります。
《営業秘密・限定提供データの保護の強化》2024.4.1~ 不正競争防止法第2条関係
ビッグデータを他社に共有するサービスにおいて、データを「秘密管理」している場合も含め限定提供データとして保護し、侵害行為の差止め請求等を可能となります。
これは、現行法で生じてしまっている限定提供データの保護の間隙をうめるための改正です。
例えば、ある企業が秘密として管理しているデータについて、秘密保持義務を課した上で他社へのライセンスを行ったものの、ライセンスされた企業が秘密保持義務に反して、データを公開してしまい、公知となった場合、現行法の限定提供データの定義では保護されず、公知になってしまったため営業秘密としても保護されないことになっています。一方で、自社では秘密として管理していなかったけれど、他社へのライセンスを行ったデータについては、限定提供データとして保護されるというちぐはぐなものになっていました。
改正法ではこの隙間を解消するため、上のような例でも限定提供データとして保護できるようになります。
《損害賠償額の算定規定の拡充》2024.4.1~ 不正競争防止法第2条、第5条関係
損害賠償訴訟で被侵害者の生産能力等を超える損害分も使用許諾料相当額として増額請求を可能とするなど、営業秘密等の保護が強化されます。
今回の改正により、特許法と同様、不正競争防止法でも、相当使用料額の算定について、「不正競争があったことを前提」とした対価を考慮できることとなりました
《裁定手続書類の秘密保護の強化》2023.7.3~ 特許法第186条、実用新案法第55条、意匠法第63条関係
裁定手続で提出される書類に営業秘密が記載された場合に、閲覧を制限することが可能となりました。
改正項目が多くありますので、改正法の3つの柱のうち、2つ目以降の柱については、後日掲載いたします。